辨 |
ヒガンバナ科 Amaryllidaceae(石蒜 shísuàn 科)には、世界に約73属、約1130-1640種がある。
アキザキスノーフレーク属 Aci(秋雪片蓮屬) 地中海地方に9種
ムラサキクンシラン属 Agapanthus(百子蓮屬)
ネギ属 Allium(葱屬)
ホンアマリリス属 Amaryllis(孤挺花屬)
クンシラン属 Clivia(君子蘭屬)
ハマオモト属 Crinum(文殊蘭屬)
ギボウシスイセン属 Eucharis(亞馬遜石蒜屬)
マツユキソウ属 Galanthus(雪滴花屬)
マユハケオモト属 Haemanthus(鋼球花屬)
アマリリス属 Hippeastrum(朱頂紅屬)
ヒメノカリス属 Hymenocallis(水鬼蕉屬)
ハナニラ属 Ipheion(春星韮屬)
オオマツユキソウ属 Leucojum(雪片蓮屬)
ヒガンバナ属 Lycoris(石蒜屬)
スイセン属 Narcissus(水仙花屬)
ハタケニラ属 Nothoscordum(假葱屬)
ハマベズイセン属 Pancratium(全能花屬) 地中海地方・アフリカ・南アジアに約21種
Scadoxus(網球花屬) 熱帯&南アフリカ・アラビア半島に約9種
ツバメズイセン属 Sprekelia(燕水仙屬) メキシコに2種
キバナタマスダレ属 Sternbergia(黃韮蘭屬) 地中海地方東部~南西アジアに7-8種
タマスダレ属(サフランモドキ属) Zephyranthes(玉簾屬)
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ヒガンバナ属 Lycoris(石蒜 shísuàn 屬)には、東アジア・ヒマラヤに約20種がある。
シロバナマンジュシャゲ(シロバナヒガンバナ) L. × albiflora(乳白石蒜)
L. anhuiensis(安徽石蒜)
L. aurea(忽地笑・黃花石蒜・鐡色箭・大一枝箭)
臺灣・福建・兩湖・兩廣・四川・雲南・ミャンマー産 『週刊朝日百科 植物の世界』10-56
L. caldwellii(短蕊石蒜)
L. chinensis(中國石蒜) 河南・江蘇・浙江産
L. guangxiensis(廣西石蒜)
L. × houdyshelii(江蘇石蒜) 江蘇・浙江産
L. incarnata(香石蒜)
L. longituba(長筒石蒜) 江蘇産
ヒガンバナ(マンジュシャゲ) L. radiata(石蒜・烏蒜・老鴉蒜・一枝箭)
ワラベノカンザシ var. kazukoana
シナヒガンバナ var. pumila
L. × rosea(玫瑰石蒜)
L. sanguinea
オオキツネノカミソリ var. kiushiana
ムジナノカミソリ var. koreana(L.koreana) 九州・対馬・朝鮮産 野生絶滅(環境省RedList2020)
キツネノカミソリ var. sanguinea(血紅石蒜)
L. shaanxiensis(陝西石蒜)
L. sprengeri(換錦花) 『中国本草図録』Ⅲ/1439
ナツズイセン L. × squamigera(紫花石蒜・鹿葱)
L. straminea(稻草石蒜)
ショウキズイセン L.traubii(特勞布石蒜) |
訓 |
和名ヒガンバナは、しばしば墓地に植えられ、秋の彼岸のころに花を開くことから。 |
漢語の曼殊沙華(mànzhūshāhuā)は、サンスクリット語マンジューシャカ manjusaka・パーリ語マンジューサカ manjusaka(「天上の花」の意)の音写。日本語の「まんじゅしゃげ」は、その呉音読み。下欄「誌」を見よ。 |
『大和本草』に、「石蒜(シビトハナ,ステコノハナ) 老鴉蒜也、シビトハナト云・・・葉ハナクテ花サク故ニ筑紫ニテステ子ノ花ト云」と。
小野蘭山『本草綱目啓蒙』9(1806)に、「マンジユシヤケ京 シビトバナ テンガヒバナ共ニ同上 キツネノイモ同上下久世 ヂゴクバナ カラスノマクラ ケナシイモ キツネバナ備前 サンマイバナ勢州 ヘソビ同上粥見凶年ニハ団子トナシ食用スヘソビダンゴトイフ ホソビ同上 シタカリバナ同上松坂 キツネノタイマツ越前 キツネノシリヌグヒ同上 ステゴノハナ筑前 ステゴグサ同上 シタマガリ江州 ウシノニンニク同上 シタコジケ同上和州 ヒガングサ仙台 セウゼウバナ クハヱンサウ ワスレグサ共ニ同上 ノダイマツ能州 テクサリバナ同上 テクサリグサ播州 フジバカマ同上三ケ月 シビレバナ同上赤穂 ヒガンバナ肥前 ドクスミラ キツネノヨメゴ共ニ同上 オホスガナ熊野 オホヰゝ マンジユサケ共ニ同上 ユウレイバナ上総 カハカンジ駿州 スゞカケ土州 ウシモメラ石州 ハヌケグサ豊後 ジユズバナ豫州 イチヤニヨロリ同上今治 ホドヅラ同上松山 テアキバナ丹州笹山 キツネノアフギ濃州 ウシオビ同上 イツトキバナ防州 ヤマベウバナ越後 ハミズハナミズ加州」と。 |
漢名は「蒜は根の状を以て名づけ、箭は茎の状を以て名づく」と(李時珍『本草綱目』)。
また、蟑螂(ショウロウ,zhānglang)とは、ゴキブリ。 |
説 |
東アジアに分布、中国では山東・河南・華東・兩湖・兩廣・陝西・四川・貴州・雲南に分布。
日本のヒガンバナは三倍体で結実せず、人家の周辺に自生しあるいは栽培されるので、古く中国からもたらされたものが野生化したもの(すなわち史前帰化植物)であろうと考えられている。 |
誌 |
鱗茎に澱粉を含み、食用にする。ただし、アルカロイドのリコリンを含むので、毒抜きが必要。
中国では、ヒガンバナなどの鱗茎を石蒜(セキサン,shísuàn)と呼び、薬用にする(〇印は正品)。『全國中草藥匯編 上』pp.252-253 『(修訂)中葯志 』I/370-374
L. aurea(黃花石蒜・忽地笑・鐡色箭・大一枝箭)
〇ヒガンバナ(マンジュシャゲ) L. radiata(石蒜 shísuàn・烏蒜・老鴉蒜・一枝箭)
L. sprengeri(換錦花)
ナツズイセン L. × squamigera(紫花石蒜・鹿葱)
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一説に、『万葉集』のイチシをヒガンバナとする。
路の邊の 壱師の花の いちしろく(灼然) 人皆知りぬ 我が恋妻を
或る本の歌に曰はく、いちしろく 人知りにけり 継ぎてし念へば (11/2480,読人知らず)
イチシの花が何であるのか、旧来諸説があり、定まらない。曰く、ギシギシ・クサイチゴ・エゴノキなど。
イチシをヒガンバナと考えたのは牧野富太郎であり、のち松田修がその説を引き継いだ(『増訂 万葉植物新考』1970)。 |
『花壇地錦抄』(1695)巻四・五「草花 夏之部」に、「さんしこ 末。花あかし。葉ハすゐせんのごとく、花の時ぶんハ葉なし。秋ニ出る」とあるさんしこは、ヒガンバナか。次項の「唐さんしこ」はなナツズイセンである。さんしこは、山慈姑かも知れない。 |
曼殊沙華咲くべくなりて石原へおり来む道のほとりに咲きぬ
(1920,雲仙岳温泉神社裏の石原にて。斎藤茂吉『つゆじも』)
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『妙法蓮華経』序品に、ブッダ(仏,釈尊,お釈迦様)が ラージャグリハ(王舎城)のグリドゥラクータ(霊鷲山,りょうじゅせん)で、多くの人々に教えを説き終わると、「この時、天は曼陀羅華(まんだらけ)・摩訶(まか)曼陀羅華・曼殊沙華(まんじゅしゃけ)・摩訶曼殊沙華を雨(ふら)して、仏の上及び諸(もろもろ)の大衆(だいしゅ)に散じ」た、という。
曼陀羅華は、マーンダーラヴァ花の音写、「適意華」と意訳する。見る者の意を喜ばせる花、の意。曼殊沙華は、マンジューシャカ花の音写、「柔軟華」と意訳する。見る者に剛強から離れさせる花、の意。摩訶は、マハーの音写、「大」の意。
この曼殊沙華が実際に何の植物を指していたかは不明である。しかし、少なくともヒガンバナではない。(なお、曼陀羅華はデイコの仲間、Erythrina indica)。 |